統合報告書

COMPANY INFORMATION

財務資本戦略 担当役員メッセージ

当社グループ独自の価値の創出により
効率性・成長性の追求と
市況変動耐久性の向上を両立し、
持続的な企業価値の向上をめざす

東急不動産ホールディングス株式会社
取締役 執行役員
一般管理管掌

橋本 茂

(2026年9月掲載)

「中期経営計画2030」強靭化フェーズ初年度の振り返りと利益成長の質

強靭化フェーズとして推進する「中期経営計画2030」の初年度である2025年度は、各種利益指標およびROEのいずれも計画を上回る進捗となり、強靭化フェーズの出発点として確かな手応えを感じています。

好調な市況を確実に捉えることができた面もありますが、この成長を支えているのは市況の追い風だけではありません。同業他社と比較しても高い水準にあるEPS(1株当たり当期純利益)の成長率は、当社固有の強みが着実に機能していることの表れだと認識しています。

特に、仲介事業の持続的な成長や、広域渋谷圏を中心に既存オフィス賃料の高い増額改定率を実現できている点はその証左です。渋谷エリアは、スタートアップ企業や若く優秀な人財を引きつける強い求心力を持つエリアです。この地域的な優位性をさらに高めるべく、当社がスタートアップ支援や産業育成を通じて街全体のオフィス需要を中長期的に創出するエコシステムを培ってきたことが、2025年度の平均15%に迫るオフィス賃料の増額改定率という成果に結びついています。市場環境のみに依存しない、実力向上による成長が着実に積み上がっていると確信しています。

また、前中期経営計画期間の再構築フェーズを通じて積み上げてきた収益力の改善は、強靭化フェーズにおいても着実に継続することができています。各事業の利益率の向上がROEの押し上げに直結し、財務レバレッジを引き下げながらも、収益の質に裏づけられた成長が定着しつつあります。キャピタル利益が想定を上回る水準で拡大できた一方で、インカム利益やマネジメント&フィー利益といった安定利益も着実に厚みを増しています。安定利益の拡大を進めることは市況変動リスクへの耐久性を高めることに直結し、金利上昇や建築費高騰といった外部環境の変化に対しても、利益構造の観点から対応力は着実に強まっています。

一方で、足元の事業環境は、これまで以上に経営の巧拙が問われる局面に入ったと認識しています。金利上昇を含めインフレの環境は平成バブル期以来ですが、当時は不動産価格の上昇が多くの経営上の不都合を覆い隠していました。今回は、当然ながら不動産価格の上昇に依拠することはなく、建築費も上昇が継続するなかで、稼いだキャッシュをどのように有効に活用していくかによって、今後数年間で企業の業績格差が鮮明に表れてくると考えています。経営に携わる立場として大きなやりがいを感じると同時に、強い緊張感をもってハンドリングしていきます。

インフレの定着はコスト面での課題をもたらす一方で、トップラインを継続的に伸ばすことができる環境になったということでもあります。この変化を機会と捉え、より勝算の高い当社グループの得意分野に資金を重点配分していくことが重要です。2027年の公表に向けて検討を進めている中期経営計画のアップデートにあたっても、「高い効率性・成長性の追求」と「市況変動への耐久性向上」という2つの軸は不変のものとして維持しながら、環境変化に応じてその実現方法を更新していく考えです。

企業価値向上に向けた資本配分と財務戦略

中期経営計画では、計画期間全体で約3.8兆円、年平均で約6,300億円の投資を計画しています。2025年度は、この投資計画に沿って、また、各事業の特性に応じて設定しているハードルレートを厳格に適用しつつ、将来成長に向けた投資を実行しました。

現在のような金利上昇局面においてはハードルレートを引き上げる方向で見直していくことになりますが、同時に、インフレ環境下でのキャッシュ・フロー成長をどれだけ確実に見込むことができるかという点も、投資判断において一層重要な評価軸になります。超過リターンが確実に見込める案件を厳選し、企業価値向上に直結する投資を実行していく姿勢に変わりはありません。これらの規律ある投資の積み重ねが、ROAおよびROEの持続的な向上に貢献していると認識しています。

加えて、金利・建築費の上昇局面では、効率性向上の観点から、すべてを自社で投資・保有するのではなく、外部パートナー企業や不動産投資家などの他人資本を取り入れたスキームも積極活用していきます。当社グループは、アセットマネジメント事業や管理運営事業において、幅広い機能を担う実績豊富な企業群を有しています。こうしたマネジメントや管理運営における高い競争力によって、他人資本活用型スキームを推進・拡大するうえで、外部パートナーから当社グループが選ばれる優位性が発揮できると考えています。

財務健全性の観点では、D/Eレシオを2030年度に1.8倍まで段階的に引き下げていく方針のもと、財務規律を守りながらレバレッジ水準を適切にコントロールしていきます。

金利上昇トレンドを踏まえると、株主資本コストも緩やかに上昇していくことが想定されます。だからこそ、株主資本コストを確実に上回るROE水準を継続的に達成することが不可欠であり、この点を、投資・還元・負債水準の資本配分の判断において最も重視しています。

また、今後、金利上昇が想定以上に進む可能性も視野に入れる必要があります。そのため、投資計画や財務指標を固定的に捉えるのではなく、事業から生み出したキャッシュをより機動的かつ効率的に振り向けていく柔軟性が重要です。成長投資、財務健全性、株主還元のバランスを見極めながら、局面に応じて最適な資本配分を行っていきます。

調達基盤の強化においては、ESGファイナンスの積極的な活用を進めています。昨今、金融機関や社債投資家によるESG投融資への関心は著しく高まっており、ESGファイナンスの実施によって金融機関・投資家層の拡大が図られ、調達条件の改善にもつながっています。こうした取り組みは直接的な調達コストの改善にとどまらず、当社グループの社会・環境課題への取り組みをより幅広いステークホルダーの皆さまに認知していただく機会にもなっており、中長期的な企業価値向上に寄与するものと考えています。

キャピタルアロケーション(2025年度〜2030年度)

全社方針と人的資本経営が生み出す財務価値

全社方針「環境経営」「DX」および人的資本経営は、当社の競争優位性を高め、将来の収益基盤を強化する戦略投資として位置づけています。私はこれらを、株主資本コストの低減と期待成長率の向上を通じてPERを高め、ひいては企業価値を向上させる複合的な価値創造の源泉と捉えています。

環境経営では、環境先進の強みと社会課題の解決を掛け合わせ、高い付加価値を創出する「環境プレミアム」を推進しています。具体的な事例を挙げますと、分譲マンション事業において「GREEN AGENDA for BRANZ」を導入しています。これは、マンション敷地内植栽の長期景観管理計画を策定し、緑地や生物多様性を育むことで緑豊かな住まいを実現するというものです。適切な自然環境の管理が景観保全と顧客満足を高め、資産価値・ブランド価値の向上につながる取り組みです。DXでは、業務効率化にとどまらない、ビジネスモデルの変革による価値創造を進めています。例えば、「東急ステイ公式宿泊権リセールサービス」では、ホテルの宿泊予約権をNFT※として発行し、お客さまがご宿泊いただけなくなった場合に二次流通で売却できる仕組みを提供しています。宿泊施設側の直前キャンセルによる空室発生、お客さま側のキャンセル不可プランでは予定変更時に返金されないといった、双方の課題解決をDX活用により実現しています。

そして、幅広い事業領域を有する当社グループにとって、人財は各事業の競争力を支えるだけでなく、領域を超えた知見の融合を生み出す重要な経営資本です。多様な人財が能力を最大限発揮できる配置・育成・投資計画を通じてグループ全体のケイパビリティを高め、持続的な価値創造につなげています。

NFT(Non-Fungible Token/非代替性トークン):ブロックチェーン技術を活用し、デジタルデータや利用権などに唯一性や所有証明を付与できるトークンのこと

株主還元と市場評価の向上に向けた取り組み

当社が累進配当と配当性向35%以上の還元方針を掲げているのは、単なる還元の充実にとどまらない意味があります。EPSの成長に伴う増配を継続することは、当社が中長期にわたって稼ぐ力を高め続けるという意思表示であり、株主・投資家の皆さまとの間に築く信頼の根幹をなすものと考えています。その信頼があってこそ、当社は成長投資に必要な資本を安定的に調達し、事業をさらに発展させることができます。インフレ環境だからこそ高い成長性への追求に一層こだわり、企業価値向上に確実につながる投資を選び抜き、EPSの成長と増配の好循環を継続的に実現していきます。

市場評価については、PBR(株価純資産倍率)1倍超の定着は当然の前提としてクリアすべきハードルと捉えており、私たちの照準はさらにその先にあります。現状のP/NAV(プライス・ネット・アセット・バリュー)倍率がディスカウントされている状況は、仲介事業をはじめとするノンアセット型ビジネスの成長の持続性を含め、当社の事業価値を十分に示しきれていないことの表れと真摯に受け止めています。まずは、現在の11%程度のROE水準の維持・向上をはじめとする成果を着実に積み重ねていくことが最優先です。そのうえで、利益構造の変化や成長の方向性について株主・投資家の皆さまとの対話を丁寧に重ねながら、当社の持続的成長への道筋を正しくお伝えしていきたいと考えています。

当社グループがめざしているのは、お客さま、地域、企業、そして資本市場から「選ばれ続ける」存在になることです。変化が激しい事業環境に応じた適切な資本配分を行い、資本効率の向上を伴う成長と健全な財務体質の維持を同時に追求していきます。そして、各事業が持つ強みを活かした当社グループ独自の価値創出をさらに強化・拡大し、あらゆるステークホルダーの皆さまから選ばれ続ける企業グループとして、持続的な企業価値の向上を実現していきます。