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GREEN PIONEER NEWS

サツマイモで省エネに!
都心のビル屋上で広がる「芋緑化」

  • # 脱炭素社会
  • # 循環型社会
  • # ビル屋上での芋緑化
ウノサワ東急ビル屋上の「室外機芋緑化システム」

10月21日、東京・JR恵比寿駅近くのウノサワ東急ビル屋上で、このビルに入居している企業で働く会社員たちによるサツマイモ収穫体験会が開かれた。都心でサツマイモの収穫というと驚くかも知れないが、実はこれ、空調室外機の省エネを図る「室外機芋緑化システム」の副産物。この日参加した33歳の女性は、「恵比寿でサツマイモが収穫できるとは思ってもいませんでした。とれても1袋でせいぜい2、3個くらいだろうと思っていたら10個以上も。それにこんなに大きいとは。とても楽しいし、できれば子どもも連れてきたかった」と弾んだ笑顔で語った。わずか30分ほどの収穫体験で、仕事の疲れも吹き飛ぶ楽しい時間を過ごせたようだ。

都心のビル屋上でサツマイモを栽培

「室外機芋緑化システム」は、バケツほどの大きさの布袋に土とサツマイモの苗を入れ、空調室外機の間に設けた架台に多数つるして栽培する仕組み。中小規模のオフィスビルでは、個別に制御でき、操作が容易なビル用マルチエアコンによる空調を採用しているところが多く、その室外機は屋上に多数並べられている。だが、直射日光が当たるほか、室外機からの排熱によって周囲の気温が上昇し、空調効率が下がってしまうということが課題になっている。その問題を解決しようと住友商事と日建設計がこのシステムを共同開発した。

室外機の近くにつるしてサツマイモを栽培する

室外機の近くにつるしてサツマイモを栽培する

室外機芋緑化システムの概略図(イラストレーション・図版作成:カレラ)

室外機芋緑化システムの概略図(イラストレーション・図版作成:カレラ)

サツマイモの葉による排熱の再吸い込み防止と日陰効果、蒸散作用によって室外機周辺の気温を下げ、空調の効率を上げることができる。水と肥料は自動的に給水、給肥でき、栽培する手間がほとんどかからない。消費電力の低減効果に加えて、例えば外気温度29℃で外壁の表面温度が40℃以上になっても、芋葉の温度は27.7℃で、ヒートアイランド対策としても有効、光合成によって二酸化炭素を酸素に変換する効果もあるとして、2020年に第19回「環境・設備デザイン賞」(建築設備綜合協会主催)の最優秀賞を受賞した。こうした省エネ効果のほか、うれしい副産物として秋にはサツマイモを収穫することができる。

収穫されたサツマイモ

収穫されたサツマイモ

このシステムを導入した東急不動産都市事業ユニット資産管理部の高橋尚宏さんは、「以前から空調の省エネについて考えていましたが、入居しているお客様である企業に設定温度の変更などで不便を強いる省エネはあまり好ましくないと考えていました。入居企業の快適性を損なわずに、ビル全体として省エネを両立できる方法を模索していたところ、専門誌で室外機芋緑化システムの記事を読んだことを思い出しました。このウノサワ東急ビルでは既に屋上菜園や養蜂活動が行われており、サツマイモとの親和性も高いことが考えられたため、昨年より試験的に導入しました。すると、夏季日中の電気使用量が10~15%も下がったのです。良い結果が出たので、今年は新目黒東急ビル、渋谷道玄坂東急ビルも加えた3棟に拡大して展開することにしました」と語る。

環境関連の業務を担当する東急不動産の高橋さん

環境関連の業務を担当する東急不動産の高橋さん

収穫作業でリフレッシュ コミュニケーションも豊かに

高橋さんは、このシステムの更なる合理化や、収穫などを通じて得られる体験がオフィスワーカーにもたらす効果についての検証を深めるため、日建設計に本計画と展望のコンサルタントを依頼するとともに、建物の省エネや脱炭素などを研究している早稲田大学創造理工学部建築学科の高口洋人教授に調査を依頼。昨年10月から温度や風速など周辺環境の実測やエネルギー使用量の分析を行っている。高口教授は「東京都の条例で、敷地面積が一定規模以上のビルは一定割合の緑化が義務付けられていますが、常緑が条件で、菜園は認められていません。こういった芋緑化にも、夏季にはヒートアイランド現象の抑制効果はありますし、省エネも期待できる。きちんと評価されるべきだと思います。このシステムはまた、機構としては単純で、サツマイモがこんなにたくさん収穫出来たという驚きでアトラクション的要素もあります。収穫に参加した人たちはリフレッシュできて、仕事の作業効率が上がることも期待されます。省エネ効果も重要ですが、人間に対する効果、ウェルネスや生産性への効果が大きいのではないかと感じています」と語る。

システムの効果を語る早稲田大学の高口教授

システムの効果を語る早稲田大学の高口教授

この芋緑化の運営をサポートしているのは、渋谷をはじめとした地域の生ごみを肥料化して商品開発に活用することで、循環型社会の実現を目指す「渋谷肥料プロジェクト」。代表の坪沼敬広さんは「渋谷などの大都市から排出される生ごみを資源として生かす仕組みをつくることで、街そのものを『消費の終着点』から『新しい循環の出発点』にシフトすることはできないか、という問いを掲げてプロジェクトを始めました。東急不動産の皆様からは、芋緑化について省エネへの貢献にとどまらず、取り組みの過程で廃棄されてしまうものの再利用や、テナントや地域の方々との交流促進にもチャレンジしたいとご相談をいただきました。サツマイモの収穫はもちろん、芋緑化という仕組みにさらにクリエイティビティを掛け合わせることで、都会で働く人たちに新しい体験をもたらすことができると実感しています」と語る。

芋緑化の運営をサポートする渋谷肥料の坪沼さん

芋緑化の運営をサポートする渋谷肥料の坪沼さん

東急不動産の高橋さんも、「このようなオフィスビルでは、働く人たちが同じビルの別会社の人と接する機会はほとんどありません。共に収穫体験をすることで顔なじみになり、対面コミュニケーションが豊かになります。このビルで働くことが楽しい、という目に見えない付加価値が出てくるのではないでしょうか。今後は、収穫したサツマイモを使ったノベルティの製作や、栽培に使った土を再生し翌年に再利用する取り組みを予定しております。環境とコミュニケーションの両面で高い効果のある取り組みにしていきたい」と語った。

収穫体験会にはテナント企業の従業員が参加した

収穫体験会にはテナント企業の従業員が参加した

広がる都心ビルの屋上菜園

東急不動産は、その他にも屋上を活用した活動を実施している。例えば、オフィスビル屋上での菜園活動『Vegitable Smiles』はその好例だ。就業時間の合間などに緑豊かな菜園でリフレッシュするだけでなく、直接土に触れ、野菜を育てたり収穫したりする喜びを共有することで、疲労感やストレスの低下、働く意欲やコミュニケーションの向上を目指そうというものだ。さらに収穫した野菜・果物は、加工品やビル内飲食店でのオリジナルメニューとして活用している。

菜園活動「Vegetable Smiles」で収穫された野菜

菜園活動「Vegetable Smiles」で収穫された野菜

収穫した果物を使用したジャム

収穫した果物を使用したジャム

東急プラザ表参道原宿(東京都渋谷区)では、施設内完結の資源循環を目指すプロジェクト「PASS THE BATON-OMOHARA」にも取り組んでいる。7階のレストラン「bills」で出たバナナの皮を微生物群「コムハム」による処理技術で堆肥化。6階テラス・おもはらの森には都会のビル屋上や遊休物件などを田畑として活用するNPO法人アーバン・ファーマーズ・クラブが運営する畑があり、そこでイチゴ栽培に活用する。さらに、栽培したイチゴを使ったメニューが「bills」で提供された。

微生物を使って生ごみを堆肥化する「コムハムコンポスト」 微生物を使って生ごみを堆肥化する「コムハムコンポスト」2

微生物を使って生ごみを堆肥化する「コムハムコンポスト」

都心のビル屋上に緑を取り入れ、そこに関わる人々の日常を豊かにする。東急不動産では他のオフィスビルや商業施設でもこうしたモデルの構築に挑んできた。空間を有効活用することで省エネや循環型社会の実現、生物多様性の保全につなげる今後の取り組みにも期待したい。

取材にご協力いただいた皆様

  • 高口 洋人
    早稲田大学
    創造理工学部建築学科 教授
    高口 洋人
  • 坪沼 敬広
    合同会社渋谷肥料
    代表
    坪沼 敬広
  • 高橋 尚宏
    東急不動産株式会社
    都市事業ユニット資産管理部
    高橋 尚宏
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