2021統合報告書
社外取締役との対談

第8回定時株主総会が開催されて間もない7月12日、社外取締役の貝阿彌誠と代表取締役社長である西川弘典の対談を行いました。長期ビジョンの意義と実践、社外取締役の専門性の多様さ、そして社会課題の解決をめざして攻めのガバナンスを展開する重要性について、意見を交わしました。

多彩な社外取締役とともに
攻めのガバナンスで
社会課題の解決をめざす

スローガンに込めた環境経営への決意

西川 先日の株主総会では、ありがとうございました。

貝阿彌 今回の総会ではオンライン配信や株主からの事前質問受け付けなど、新しい取り組みが行われていましたね。事前質問の反応はどうでしたか?

西川 意見や質問は約400件に上りました。特に取締役会の体制、株主還元、そして、アフターコロナにおける今後の経営についてご意見を多くいただきました。

貝阿彌 直接声を聞く良い機会になりましたね。

西川 とりわけ個人株主の皆さまがどのように考えているかを理解でき、私たちの事業の方向性を決めていくうえでの示唆をいただいたと感じています。

貝阿彌 今後の総会でも、ぜひ継続していきましょう。

西川 私もそう思います。ところで当社グループは5月に長期ビジョンを発表しました。内容検討のプロセスでは社外取締役からも数多く意見をいただきました。草案は社内の議論を重ねて内容を充実させていきましたが、それだけではどうしても視野が狭くなります。だからこそ、社外取締役のフラットな目線の意見を踏まえて案をブラッシュアップできたことが貴重でした。

貝阿彌 特に印象的だったのは、スローガンにつながった議論です。10年後にありたい姿の議論は煮詰まってきたけれど、「感覚的に分かりにくい」「グループがどう変わりたいかを、すべてのステークホルダーに理解してもらうための端的なメッセージが必要ではないか」という声が社外取締役から相次ぎました。

西川 そこから生まれたのが「WE ARE GREEN」です。

貝阿彌 新鮮なスローガンでした。グループを挙げて環境への取り組みを進める意思を真っ先に感じましたが、他にも色々な意味を込めているそうですね。

西川 当社のコーポレートカラーは緑色なので、「GREEN」は私たち自身です。同時に、長期ビジョンでDXとともに全社方針として掲げる環境経営を実践し、環境先進企業をめざす決意を表しています。さらに、「WE ARE」では最後までやり遂げる意思を、グラデーションでは人財や事業の多様性を表現しました。

貝阿彌 これからグループの全従業員に「WE ARE GREEN」を浸透させていくことが重要ですね。経営では、どのように長期ビジョンを実現していきますか?

西川 現在、2022年5月の発表に向け、2025年までの中期経営計画の草案を議論しています。数値目標も含めた具体的な計画を立て、部門ごとに長期ビジョンとその実現に向けた戦略を有機的にリンクさせていきます。

貝阿彌 計画の策定においては役員だけでなく、より多くの従業員が関わることが望ましいですね。ぜひ、未来を担う若い人たちの意見も取り入れてください。

西川 各部門で幅広い従業員の意見を出し合って5年後の姿を描いていけるよう進めていきます。

貝阿彌 「WE ARE GREEN」の実践に期待しています。

東急不動産ホールディングス株式会社
代表取締役社長

西川 弘典

DX活用を課題克服の好機と捉える

貝阿彌 2020年度までの前中期経営計画は、最後に新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けました。

西川 はい。ただ、数値目標は未達でしたが、その内容を見ると「東京ポートシティ竹芝」などの賃貸業を中心に安定利益の積み上げが進みました。施設運営の面でもかなり体質改善を図っていますから、コロナ禍が落ち着いてインバウンド需要が戻れば、より大きな利益を生む事業に変わると手応えを感じています。

貝阿彌 現在策定中の次期中期経営計画では、何が重要となるでしょうか?

西川 成長の仕方を変えていく方針を具体的な戦略に落とし込んでいかなければなりません。今回、事業セグメントを資産活用型と人財活用型に再編しました。各事業の社会的役割と成長シナリオが異なるからです。まず、安定利益が積み上がってきた資産活用型ビジネスについては、循環型再投資の規模と回転速度を上げ、売却利益の上積みを拡大します。もうひとつは人財活用型ビジネスです。

貝阿彌 人財活用型ビジネスのポイントは何ですか?

西川 私は、人財活用型というよりDX活用型ビジネスと言ってもよいくらいに思っています。売上を増やしつつ、経費を削減できれば利益率は上がります。そこで、DXを活用して社内の事務作業を省力化する。結果として、従業員一人ひとりが本当にやるべきことに注力できるようになることで、私たちが掲げる人財活用型ビジネスも実現できる。そういうビジネス構造に切り替えるには、2025年までの中期経営計画で方針を示す必要があります。具体的な計画を立て、実行していければ、イメージしている成長を描けると思います。

貝阿彌 競合他社と比べて当社グループの営業利益率が低いことについては、私たち社外取締役の間でも課題感を共有しています。労働集約的な事業が多いことが影響しているのでしょうから、DXの活用はその課題を克服する良い機会だと思います。

西川 お客さまへのサービスでもDXは重要になっていきます。コロナのワクチン接種予約などでは、高齢者も必要に迫られてスマートフォンやパソコンを利用しています。お客さまがデジタルを受け入れてくれているのだから、私たちもデジタルへの接点の持ち方など色々と工夫していけると期待しています。ただ、気をつけなければいけないのが「DXの罠」です。

貝阿彌 「DXの罠」とは何でしょうか?

西川 私が勝手にそう呼んでいるのですが、つくるときにはどうしても、自分たちが関わる領域だけでDXを考えがちです。でも、各事業の視点で部分最適のサービスをつくっても、お客さまにとっての最適解とはいえない中途半端なものができあがってしまう。徹底したお客さま目線でビジネスを捉え、「自分たちの強みを活かして、お客さまにどんな価値を提供できるか」という視点でグループの幅広い事業領域を俯瞰して見なければ、この罠に掛かってしまうと気を引き締めています。

貝阿彌 視野が狭くなりそうなときは、社外取締役がどんどん意見を言わなければなりませんね。

素朴な質問が本質に気づかせてくれる

西川 今回の総会で、新任の社外取締役が3名選任されました。取締役会のスキルマトリクスを強く意識して候補者を探し、指名・報酬委員会に諮問しました。

貝阿彌 DX推進では、NTTなど民間企業での経営経験が豊富な三浦惺さんの存在が大きいと感じています。また、金融庁設立を経験し、国税庁長官を務めた星野次彦さん、厚生労働省で働き方改革や女性活躍を推進した定塚由美子さんを迎え、専門性が広がりました。

西川 総務省で通信行政に携わり、総務事務次官まで務められた小笠原倫明さんや、CFOとしての実務経験が豊富な新井佐恵子さんにも、それぞれの領域での高い見識に引き続き期待しています。

貝阿彌 実に多彩で幅広い視点を持ったメンバーがバランスよくそろい、取締役会での議論が楽しみです。

西川 社外取締役との議論は有意義です。私は経営者として多角的な視点で判断しているつもりですが、社外取締役との議論で気づかされることが多々あります。修正が利く段階で、自分の考えを見直す良い機会です。

貝阿彌 私は、「この意見は一般人すぎる視点かもしれない」と感じながらも、思い切って発言しています。

西川 貝阿彌取締役から「こんな素朴なことを聞いて申し訳ないけれど、なぜこれをやるの?」と質問されるとき、本当にどきっとします。なかには、つい過去の慣習に従って進めてしまっている議題もあり、そういうときに「なぜ?」と事の本質を問われるのです。社外取締役からステークホルダーの目線で意見をいただくことは、私たちにはとてもよい刺激になります。

社外取締役(独立役員)

貝阿彌 誠

コンプライアンス遵守の警鐘を鳴らす

西川 長年、裁判官を務められた貝阿彌取締役には、特に法務やコンプライアンス、リスクマネジメントの視点で監督いただいています。また昨年度は、役員向けにコンプライアンスセミナーの講師もお願いしました。大変興味深く参考になるお話をありがとうございました。

貝阿彌 セミナーでは実際に起きた事案を題材に、不適切、不正な行為が長年、繰り返され、しかるべき部署が把握していなかった事例などをお話ししましたね。私が強調したのは、事実を把握した際にはしかるべき部署に知らせる勇気が必要であること、そして今の世の中ではそういった不適切、不正な行為を隠し通すのは不可能である、ということです。

西川 貴重なセミナーでした。講義は録画して、コンプライアンス部門など社内で共有しています。率直なところ、当社グループのコンプライアンスの状況をどう評価されていますか?

貝阿彌 残念ながらハラスメント事案や個人情報漏洩事故などは発生していますが、起きた事案や執行側が取った対応は、私たちにもきちんと報告・共有いただいています。ですから、執行サイドがコンプライアンスの重要性をしっかり認識して取り組んでいるのを感じますし、内部通報制度などもかなり機能していると思います。そういう意味で、重大なコンプライアンス違反は見受けられないと言えます。しかし、だからと言って気を緩めてはいけません。法令遵守のみならず、社会規範の遵守も含めて、警鐘を鳴らしていく必要があるでしょう。私たち社外取締役も厳しく見ていきたいです。

西川 コンプライアンスに関して何か懸念が生じたときは、私たちの対応が甘くないか、厳しい意見を、ぜひともお願いします。緩んでいることを戒めてもらえると倫理観も維持されると思います。

仁義道徳の精神に立ち、攻めの経営を

貝阿彌 西川社長は「仁義道徳」を大切にしていると昨年の統合報告書のトップメッセージで知りました。仁義道徳は渋沢栄一の言葉だそうですね。

西川 はい。私たちの原点を作った人物ですので、その哲学に触れる機会は多くあります。「富をなす根源は何かといえば、仁義道徳」という言葉を残しました。

貝阿彌 なぜ仁義道徳の大切さに気づいたのですか?

西川 新入社員時代に土地の買収をするとき、「お願いです、売ってください」だけでは売ってもらえなかった。「地域全体にとって、こういう良いことをするので、ぜひ協力してください」と、腹の底から本音で言えるようになったら、皆さんに協力してもらえるようになりました。「三方よし」を実感しているからこそ、社会性のない事業は絶対上手くいかないと思っているのです。

貝阿彌 当社グループの良いところは、事業活動を通じて社会課題の解決を追求していることです。企業だから利益を上げないといけない。しかし、利益だけを追求している会社はいずれ衰退します。仁義道徳の精神で社会に貢献しながら利益を上げるのが理想的です。

西川 今回の長期ビジョンで、環境経営を打ち出しています。私たちのノウハウを活かした事業を通じて、喫緊の社会課題である環境に貢献できると考えたからですが、加えて、全社的に環境意識が高まれば、自ずとその周辺にある社会的な道徳観も従業員一人ひとりに広がっていくのでは、という副次的な効果にも期待しています。

貝阿彌 正しい道徳観はコンプライアンスを遵守するうえでも大切な拠り所になります。道徳観を高めながら、社会課題の解決、社会と向き合う使命感を大切に、攻めのガバナンスで事業を進めてほしい。暴走になっていないかは、社外取締役が監督していきます。

西川 ぜひ、攻めていきたい。暴走した場合だけでなく、攻めが足りないと思ったときも指摘してください。社外取締役からの指摘があれば、私たちも軌道修正しやすい。これからも、よろしくお願いいたします。

貝阿彌 未来志向で、新しい価値創造を続けましょう。