統合報告書

COMPANY INFORMATION

社外取締役座談会

当社らしい環境経営とDXを通じた
中長期的な収益力の向上に期待

多様なバックグラウンドと専門分野をもつ社外取締役5人が、中期経営計画や成長戦略について、
進捗と今後の期待、また感じている課題に関して率直に意見を交わしました。

社外取締役 三浦惺 × 社外取締役 星野次彦 × 社外取締役 新井佐恵子 × 社外取締役 定塚由美子 × 社外取締役 貝阿彌誠

事業ポートフォリオ再構築と財務資本戦略経営計画を着実に実行しROEが改善
執行陣の決断を高く評価

長期経営方針で掲げる「事業ポートフォリオの再構築」の進捗について、どう評価していますか?

貝阿彌

当社は、長期経営方針のなかで、事業ポートフォリオの再構築を掲げました。なかでも「東急ハンズをどうするか」は、取締役会で度々議論になりました。ハンズのブランドイメージは強く、私達社外の者でも愛着がありましたし、社員にとってはなおさらだったでしょう。コロナ禍で業績が悪化した東急ハンズを2022年3月に譲渡したのは、きわめて勇気のいる決断だったと思います。譲渡先のカインズさんが、ハンズと理念を共有できるパートナーであり、ハンズを活かしてくれたこと、これはとても良かった。結果、当期のROEも上昇しており、決断した執行陣を高く評価します。

新井

同感です。財務資本戦略としてみても、一連の事業ポートフォリオの抜本的見直しが、ROEの改善を大きく後押ししました。一方、D/Eレシオは同業他社に比べてまだ高いため、改善に向けて稼ぐ力の強化に中長期的に取り組んでいただきたいです。
そのためにも、DXが重要です。当社を中心に全体最適を考えながらDXにつながるデジタル化を進めることで、ROEはさらに改善されるはずです。個別プロジェクトにおいても資本コストを踏まえたハードルレートをもとに意思決定を行うことが肝要ですので、継続してほしいと思います。
また、中期経営計画のKPIに対しては、経営陣はもちろんのこと、現場からも達成に向けた強い意志を感じます。こうした強い意志は当社グループの創業の精神「挑戦するDNA」に由来するようにも思います。

星野

新井さんのお話にもありましたKPIを適切に設定したうえで資産効率の向上、また投資と回収のコントロールを進めていくのが成長の基盤と考えます。持株会社としてグループ事業を俯瞰し、共通の指標で評価する、時系列的に見ていく、対外的に明示し説明する、社内にも納得性ある説明をしていく。財務資本戦略によるグリップが機能しているから、有効に事業の見直しが進められていると感じています。
ただ、現状、不動産マーケットの好況、インバウンド需要の回復という波に乗っていますが、今後のマクロ経済や海外の経済状況は注視すべきです。引き続き、しっかりモニタリングしながら考えていくことが大事だと思いますね。

社外取締役 星野 次彦
社外取締役 星野 次彦
大蔵省(現財務省)に入省後、金融庁の設立などに携わったのち、主税局長、国税庁長官などを歴任。2021年より現職。

人財・組織風土改革人財戦略や組織体制の確立を評価
さらなる女性活躍がテーマ

人財・組織風土に関しては「一体感のあるイノベーティブな組織風土の醸成」を掲げています。こちらの進捗についてはいかがでしょう?

三浦

執行陣によって、グループ全体で一体感の醸成が進められていると感じます。持株会社が中心となって、ビジョンと経営方針を明確にしながら中期経営計画をつくり、それを実行できています。主要な事業会社のトップがボードメンバーになることでグループのベクトル合わせや情報共有もできているなど、取締役会の構成も良い形で機能していると思います。
また、対外的な連携の強化も謳っていますが、JR東日本さんとの提携をはじめとしたさまざまな協業が進み、人材の交流も行われ、その結果シナジーが生まれています。そうした面も、企業風土の醸成を後押ししているのではないでしょうか。2023年度も、中期経営計画はいい形で進捗しているし、それが従業員、グループ全体の自信にも組織風土の醸成にもよい影響を与えていると思っています。

定塚

「経営戦略と連動した人的資本経営」が注目されています。経営戦略に基づく将来の事業の姿から、必要となる人財や組織を導き出す考え方です。当社グループにおいても、人財を獲得・育成するうえで、その視点が大切になります。
非常に高く評価したいのが、人財理念のもとで「価値を創造する人づくり」「多様性と一体感のある組織づくり」「働きがいと働きやすさの向上」という3つの人財戦略を定めたことです。ダイバーシティ&インクルージョンの専任部署の設置により、推進体制もしっかり整ったので、今後の進捗に期待しています。新卒社員の女性比率が46%※まで高まってきたものの、残念ながら日本社会ではまだ出産、育児の負担が女性に偏っている現実があるなかで、どうやって女性の意欲と能力を育てていくか、企業の中核として男性と同じように活躍できる環境を整備していくのかが重要です。

2023年4月実績

社外取締役 定塚 由美子
社外取締役 定塚 由美子
厚生労働省や内閣府などで、働き方改革、女性活躍などを推進。行政官としての専門的知識と長年にわたる経験を有する。2021年より現職。

収益性の向上に向けて資本収益性と企業価値の向上には投資家との丁寧な対話がカギに

「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ」への改善策をはじめ、資本収益性の向上について考えをお聞かせください。

星野

先程も申しましたが、当社は、財務資本戦略を通じた事業ポートフォリオの見直し、投資や事業の選択と集中を実行しています。1倍の数字に捉われすぎて自社株買いなど短期的なことをするのではなく、資本コストや投資家の期待リターンを踏まえながら、収益性と企業価値を高める成長投資についての説明を投資家にしっかり行うことが中長期目線で株主の評価につながるでしょうし、真に求められているPBR1倍割れの対策だと考えます。

新井

その点で言いますと、投資家向けに、もう少しこまめな情報開示を実施するのも有効だと思います。例えば23年3月期の決算で好業績を発表した際には、株価が急伸しPBRが改善されました。業績は期中からある程度予測できたことですし、開示でも発信していたのに、株価に反映されたのは決算が出てから。投資家への伝え方に工夫の余地があるのかもしれませんね。
また「体験型」の対話も、非常に有効ではないでしょうか。私自身、九段会館テラスや東京ポートシティ竹芝の施設の説明を現地で受けたとき、革新的なアイディアや随所にあるこだわりを体感し、感動を覚えました。投資家にももっとそのような機会を設ければ、当社グループの価値をより明確に理解していただけると思いますし、結果的にPBRの向上につながるはずです。

定塚

例えば、現実の世界をコンピューター上で再現するデジタルツイン技術を使って投資家とリアリティある方法で対話をする、仮想世界に新しい施設を投影し、実際にそこにいるかのように投資家の皆さんに施設見学を体験してもらうなど、効果的なPRの手法は考えていくべきと私も思います。
一方、PBRは重視しなければいけないものの、肝心なのは短期ではなく中期的に稼ぐ力を強化することです。その点、ポートフォリオを見直して会社を筋肉質にする施策は間違えていないと思いますし、今後もしっかり継続していただきたいです。

貝阿彌

企業として、PBRを意識した経営が必要な点には異論ありません。一方で、それだけに偏るのもどうかと感じます。
もともと東急不動産ホールディングスは、事業を通じた社会課題の解決を掲げ成長してきた会社です。例えば、当社グループが提供するシニア住宅は、必ずしも大きな利益になっているわけではないものの、社会課題の解決に寄与しています。利益を追求するあまりに、そうした部分が軽視されないようにしなければいけません。それこそ皆さんも言われている通り、提供する社会的な価値を投資家に丁寧にアピールすることが、株価の上昇にもつながると思います。

社外取締役 貝阿彌 誠
社外取締役 貝阿彌 誠
法務省大臣官房訟務総括審議官、東京家庭裁判所所長、東京地方裁判所所長などを歴任。コンプライアンスに関する豊富な知識と経験を有する。2018年より現職。

三浦

PBRは常に念頭に置く必要はありますが、あくまで指標の一つです。企業は株主のものであるのと同時に、お客さまや地域社会など、他の幅広いステークホルダーにも価値を提供する存在でなければいけません。PBRだけに焦点を絞るのではなく、持続的成長に向けた経営戦略のなかでPBRという指標をどう位置づけるのか、検討していく必要がありますね。

2つの全社方針環境経営とDXを両立させ、渋谷を“世界のモデルシティ”に

「環境経営」「DX」を通じた独自性のある価値創出について、今後、期待される点や改善が必要な点を教えてください。

貝阿彌

環境経営に関しては、太陽光発電や陸上風力発電に加えて、洋上風力発電にも戦略的に取り組んでいただきたいです。また、開発したビルや建物に再生可能エネルギーを効果的に活用している点などは、もう少し世に広くアピールしてもいいのではないでしょうか。

三浦

TCFDへの賛同やRE100の加盟など、国際的な枠組みに対して、当社グループは比較的早く取り組んできました。そこももっとアピールしていいかもしれません。お話の出た洋上風力については、太陽光とはまったく違う競争環境にあります。海外企業も本格的に参入しているので、どこと組んでどのような形で進めるかの戦略が肝要です。慎重さも大切ですが、会社として大胆かつ迅速に判断することが求められます。

社外取締役 三浦 惺
社外取締役 三浦 惺
日本電信電話(株)の社長などNTTグループの要職や、(一社)日本経済団体連合会の副会長などを歴任。持株会社の経営経験者として、豊富な見識を有する。2021年より現職。

定塚

環境経営に取り組むうえでも、「WE ARE GREEN」のスローガンはすばらしいと思います。一方で、私も、環境経営に関する具体的な取り組みを、もっとPRしていくべきではないかとも感じています。
太陽光については、太陽光を農業と発電とで共有する「営農型太陽光発電」という取り組みも行っていて面白いと思います。当社グループには不動産デベロッパーならではの進め方ができますし、かつ太陽光にはその余地がまだまだあると感じるので、そこを突き詰めたいところです。

星野

「WE ARE GREEN」をあらためて読んでみると、「WE」は当社グループだけでなく全てのステークホルダーとも言えると思っています。一人ひとりの人間やその生き方を草花に例えれば、この言葉から感じる、若葉が芽吹き、それぞれの個性を活かして大きく育っていくようなイメージは、当社がめざす「誰もが自分らしく、いきいきと輝ける未来」そのものです。「WE ARE GREEN」は、そのような世界を「ともに実現していきましょう」と幅広く呼び掛けていく言葉としていくことができるのではないでしょうか。環境に限らず、DXを実現するうえでも、今後はステークホルダーを巻き込んだ参加型の事業展開へと進化していくはずです。環境経営は、社外の人たちを巻き込みやすいテーマなので、環境とDXを融合しながら、ステークホルダー参加型の経営、幅広く愛される企業を具現化していただきたいです。そのスローガンとして「WE ARE GREEN」がさらに広く浸透・活用されることに期待します。

新井

環境経営とDXの融合という視点でいえば、東急グループが取り組む広域渋谷圏では、働く・遊ぶ・暮らすをテーマに、様々な施設の整備が進んでいます。そこではDXも活用しながら、オフィスで働く従業員、憩いの場として訪れる近隣住民、そこに集う動植物などが共存する世界づくりが始まっています。再エネを活用したDX、デジタライゼーションでエリアマネジメントに取り組む、「リアルエステート・アズ・ア・サービス」を当社グループが広域渋谷圏での取り組みによって体現し、渋谷という街が日本のみならず、世界の都市のモデルになればと期待しています。

定塚

私も、当社グループの事業には夢があり、日本を元気にする力があると感じます。DXに関しては、当社とTFHD digital社※が中心となって、グループ各社の取り組みを強力に支援して進める体制がすばらしい。デジタルを使ってこんなことができるというのが提示され、そこから新しいアイディアが生まれ、社内の活性化につながっています。DXに関する説明は私たち取締役会に対しても行われていますし、DXレポートを通じて社外にも開示されています。
まさにそうした取り組みが、経済産業省と東京証券取引所が認定する「DX銘柄2023」の選定につながったのだと思います。

2022年に設立した当社グループのDX機能会社

星野

渋谷という街が国際競争力のある街だとみなされていて、最近、多くのIT企業などからオフィスを構えたいというニーズが増えています。テック企業や海外ベンチャーとのシナジーを生み出すうえでも、渋谷は最適な場所です。だからこそ、当社グループが旗振り役となり、渋谷ならではのビジネススタイルの確立や新たな事業の掘り起こしを期待します。

三浦

DXについては、これからが本番だと思います。不動産業では新しいサービスが出にくい面もありますが、ビジネスモデルを変えてこそ真のDXなので、ぜひそこをめざしていただきたいです。

貝阿彌

東急コミュニティーが携わるビル・マンション管理におけるDXにも、非常に可能性を感じています。マンパワーに頼らないビル管理など、今までとはまったく異なるビジネスモデルができると思います。

新井

先程、竹芝を見学させてもらった話をしましたが、その時にお掃除ロボットや警備ロボットが活躍しているのを見ました。人が担っていた部分をAIや機械に移行することで、人手不足の解消に加え、クリエイティブなまちづくりも実現可能でしょう。やはりDXは、社会課題の解決と密接につながっているなと、あらためて思います。
褒めてばかりでもなんですので、現状の課題を挙げるならば、スピードではないでしょうか。”他に抜きん出た強み”は、スピードによってより強化されます。少し厳しい言い方にはなりますが、アメリカなどと比べると、日本のソフトウェア開発はまだまだ旧態依然としています。そこを加速できれば、事業全体の効率が相当に良くなるはずです。

中長期の成長に向けて当社グループ“ならでは”の形で収益力を高めることが鍵

最後に、今後の東急不動産ホールディングスの成長に向けたメッセージや抱負をお聞かせください。

貝阿彌

当社は非常にまじめな会社だから、法律やコンプライアンスが専門の私が知見や経験を活かして貢献できている実感があまりないのですが、その分、一市民としてどう考えるのかという視点で、率直な意見を申し上げていきたいです。
私が社外取締役に就任して5年が経ちますが、取締役会の雰囲気もだいぶ変わりました。以前より女性が増え、バックグラウンドも多様になって、より自由な議論のできる有益な場になったと感じます。

新井

あらためて大切なのは、稼ぐ力を身につけることです。それにより、PBRの改善はもちろん、従業員のモチベーションも上がります。とりわけ重視したいのが「どう稼ぐか」です。当社グループならではのオリジナリティを打ち出しながら収益力を高めるというのが、非常に重要になると思います。

社外取締役 新井 佐恵子
社外取締役 新井 佐恵子
公認会計士として監査業務などに従事。その後、IT企業の共同創業者となり、日本初の女性CFOに就任したほか、米国企業の経営経験ももつ。2018年より現職。

星野

この大変な時代に企業に求められるのは、課題を強みに変える力だと思います。課題に向き合い、それを稼ぐ力につなげることは、なかなか一筋縄では実現できませんが、だからこそ当社グループに根付く”挑戦するDNA”で、意欲的に取り組んでいただきたいです。
環境経営やDXを進めるにあたっては、エリア全体で価値を高める「エリアマネジメント」の考え方が不可欠ですし、行政や自治体をいかに巻き込むかがカギになります。そうした局面で行政の立場なら何を求めるのか、どう考えるのかというアドバイスを通じて貢献できると思います。

定塚

私の専門はダイバーシティなので、その面でぜひ貢献させていただきたいです。女性だけでなく、LGBTQ、あるいは男性に対する配慮も含め、ダイバーシティを切り口にしながら「誰もが自分らしく輝ける未来」の実現をめざします。社外取締役の立場で、社内の女性を支援していきたいと思っています。

三浦

これまで経営に携わってきて、「企業は人なり」というのを強く実感しています。今いる人財をどう活用するか、どんな人財を迎え入れ育てていくかを人事制度も含めて見つめ直してほしい。
新しいことにチャレンジするにあたっては、均一な人財より多様な人財が混在した方が、組織の総合力は高まります。したがって、成績が優秀な人財だけを集めるのではなく、特徴ある人財を採用していただきたいなと。そうしたグループの総合力を高める取り組みに、貢献していきたいです。